塩を入れて茹でるワケ

パスタだけでなく、すべての料理において重要な調味料が「塩」だ。
塩は、食品に塩味をつけるだけではなく、われわれ生体の電解質のバランスを調整したり、浸透圧維持のための重要な物質だ。
今でこそ塩は簡単に手に入るが、昔はそんなたやすく手に入るものでもなく、かなり貴重なものだった。
古代ギリシャでは、兵士へ給与の一部として塩(salarium argentum:塩貨幣)を与えていたらしく、これが英語のサラリー(salary:給与のこと)の語源となった。
中国では「鹹(かん)甘酸苦辛」を五味要素としており、特に塩味を意味する鹹(かん)を筆頭にしている。
これらから人間と塩は切っても切れない長いつながりがある。
そんな塩の大きな役割は塩味をつけることがまず考えられるが、それ以外にも我々は塩の特性を上手く利用してきた。
そんな塩の特性を列挙してみる。

酸化防止作用
0.5%程度の塩水は大気中の酸素によって食品が変色するのを防ぎ、ビタミンCなどの酸化も防ぐ。
浸透圧作用
野菜や魚に食塩をふって水分をしみださせる。漬物なども塩で野菜の脱水を行って作る。
酵素抑制作用
リンゴを褐色に変化させるポリフェノール酵素の働きを抑制したり、野菜を茹でる時にはクロロフィルの退色を防ぐ。
リンゴを塩水につけるのは、酵素抑制の効果と酸化防止を兼ねている。
たんぱく質溶解作用
1~2%の塩水はたんぱく質を溶かす作用がある。
小麦を練るときに塩を加えると粘りが増し、かまぼこなどの練り物は魚肉たんぱく質に作用して弾力性を高める。
たんぱく質凝固作用
5%以上の塩水はたんぱく質を凝固させ、卵の加熱調理に使うと身絞まりがよくなる。肉や魚などは表面のたんぱく質を凝固させて、肉汁(うまみ)を閉じ込めることができる。
また、サトイモなどのぬめり成分も凝固させる。
高温沸騰
純粋な水の沸点は1気圧で100度だが、食塩水は沸点が100度以上と高温である。
そのために、野菜類の細胞膜をより軟らかく茹でることができる。
防腐硬化
10%以上の塩水は食品中の水分を脱水し、雑菌が繁殖するのを抑制する。
塩漬けや塩にまつわる加工食品や保存食品のも納得。
ただし、濃度の低い塩水では効果は少ない。

パスタを茹でる時に塩を入れるのは、塩の一番の働きである塩味の付加である。
パスタそのものに塩味をつけることで、より美味しいパスタに仕上がるというもの。
あとは、たんぱく質の溶解高温沸騰がパスタの茹で塩に関係する。
塩によって麺に含まれるたんぱく質が溶け、より粘り(つまりはコシ)のある仕上がりになるというものだ。
高温で沸騰させるとは、言うまでもなくお湯の温度が下がりにくなる。
たかが塩、甘くはないけど甘くみてはいけないってことだ。

さてはて・・・・ここまで書いたんだから、もうちょっと塩のことを調べてみよう。

日本の塩

アメリカ内務省鉱山局の調査によると世界の塩生産量のうち、
3分の2は岩塩・天然鹹水(かんすい)>などの地下資源で、残りの3分の1は海水資源だという。
岩塩とは海水が蒸発・堆積し鉱床となったもの、天然鹹水とは地下の塩泉や鹹湖などだ。
日本では岩塩が発見されることはなく、縄文時代から海水を土器で煮詰める素水焚(そすいだき)で生産された。
いわゆる塩田は奈良時代に入ってからのことで、海水を数回塩田に散布して、水分を蒸発させる揚浜式(あげはましき)>が主流だった。
江戸時代になると、塩の干満差を利用して海水を浜にひき入れる入浜式(いりはましき)が瀬戸内海地域で発展する。
1952年になると緩い斜面をつけた流下盤に海水を流し天日で水分を蒸発させ、竹枝を組んだ枝条架(しじょうか)から滴下させて鹹水を取る流下式塩田が成立する。
1972年以降になるとイオン交換膜法が開発されて、現在では塩田を使わずに海水から塩を精製している。
イオン交換膜法は陽イオンだけを通す陽イオン交換膜と陰イオンだけを通す陰イオン交換膜を交互に並べた水槽に海水を入れ、水槽の両端に電極を置いたものだ。
電極から直流電流が流れると、ナトリウムイオンは陰極に向かい陽イオン交換膜を通り抜け、塩素イオンは陽極に向かい陰イオン交換膜を通り抜ける。
そのために交換膜の間に濃度の濃い部屋(濃縮室)と薄い部屋(脱塩室)が生まれ、濃縮室から塩を採取するといったなんとも頭が痛くなるような手法である。
日本の製塩はこのイオン交換膜法が主流だが、国内生産以外にも天日塩や岩塩の輸入も多い。
古来から貴重であった塩は現在の日本でも同じで、一般の商品とは多少ことなり1996年までは専売制度において流通していたが、現在は1996年に制定された塩事業法という法律にしたがい安定的に供給され、私たち消費者の手に届くようになっている。

塩の種類

塩と言っても、その種類はけっこうあり、大きく分けると生活用塩と特殊製法塩にわけられる。
生活用塩は塩化ナトリウムの含有量が40%以上の固形物をさし、従来は日本たばこ産業(株)が販売してきたものを、現在では(財)塩事業センターが引き継いでいる。
特殊製法塩とは香辛料やにがり、ゴマやコンブなどの自然食品を混ぜ合わせたものや自然塩や岩塩などの特殊な製法のものをさす。

原塩
食品・化学産業などの工業用の原料塩。
輸入塩が多いので、同意として言う場合が多い。
主な輸入国はメキシコやオーストラリア。
粉砕塩
原塩を粉砕した塩。特に水産物の加工や皮革の貯蔵用として使う場合が多い。
精製塩
原塩を溶解して精製加工したもので、塩化ナトリウムが99.5%以上のもの。
ハムやソーセージ類、パン、お菓子などの食品加工業に使用されることが多く、とりわけ塩化ナトリウムの含有量が99.8%以上のものを特級精製塩と呼び、バターやチーズなどの加工に使う。
食塩
海水を使いイオン交換膜法を使って得られた鹹水を濃縮し、精製したもので塩化ナトリウムが99%以上。
パンやお菓子、水産加工業に利用される。
並塩
海水を使いイオン交換膜法を使って得られた鹹水を濃縮し、精製したもので塩化ナトリウムが95%以上。
味噌、漬物、水産物、麺類などの業務用などが主。
食卓塩
食卓での調味に使われ、塩化ナトリウムが99%以上で塩基性炭酸マグネシウムを0.4%含む。
原塩を溶解して再精製して作る。
調理味つけ用塩
調理のときの味付け用で、塩化ナトリウムが99%以上で塩基性炭酸マグネシウムを0.4%含む。
粒子のやや大きいキッチンソルト、やや小さいクッキングソルトなどは調理味つけ用塩に分類される。
漬物塩
その名のとおり漬物用で塩化ナトリウムが95%以上。
粉砕塩から作るが、それにリンゴ酸、クエン酸、塩化マグネシウムを加えたもの。
焼き塩
塩を焼いて加熱して、塩化マグネシウムを酸化マグネシウムに変えて吸湿性をなくしたもの。
天然塩(自然塩)
輸入原塩を一度溶かし、不純物を取り除いてから自然乾燥させたり、または釜などで煮詰めなおしたもの。
または塩田などで作られた塩なども天然塩に含む。
岩塩
鉱山状に存在する塩の塊。
これを粉砕する方法と、岩塩層にパイプを打ちこみ淡水を注入して水溶液を取り出して、それを結晶化させたものとがある。
アメリカ、カナダ、中国、ロシア、ドイツ、イタリアなどの世界各地で採取されている。

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