パスタを知る

パスタとは何か

再び「パスタとは何だ?」と問いかけて、またも伊和辞典を開いてみる。

pasta [パスタ] (名) (女)
  1. パスタ(スパゲッティ、ペンネなどの麺類)
  2. ペースト、練り粉
  3. 気質
  4. (パイ、タルトなどの)練り粉菓子、ケーキ
  5. ペースト状のもの
  6. パルプ

だそうだ。
(女)というのはpastaが女性名詞であるということ。
イタリア語の名詞には男性名詞、女性名詞とがあり、それによって複数形やその名詞につける冠詞、不定冠詞、定冠詞、さらに形容詞などが変化してくる。 とこんなとこだが、これ以上深くは聞かないで下さい。私もイタリア語はしゃべれませんので。

一般的に我々日本人がパスタと呼ぶとスパゲッティであったり、マカロニであったりいわゆる小麦粉で出来たイタリアの麺という認識である。 イタリア語ではパスタ(pasta)とは「練り物」という意味合いになる。 それは英語で言うところのペースト(paste)であったりするのだ。 だからイタリア語の世界では粘土のパスタとか、セメントのパスタとか、パスタは本来食いもんに限った意味ではない。 上の伊和辞典の最初の意味、そうそう日本人の一般人が思い浮かべる旨いパスタはpasta alimentare(食用パスタ)となるわけである。 もっとも今では単にパスタと言えばpasta alimentare(食用パスタ)のことであると思っても良い。

そういえばパスタという言葉だが、私が子供時代にはそんな言葉はなかった気がする。 きっとスパゲッティやマカロニといった名称だけで事足りたし、それらを総称するまでもなかったということであろう。 日本の食生活の多様化に伴い、近年世界的なイタリア料理ブームとともに日本にも多くのパスタが上陸し一般に浸透するにつれ、それらをひっくるめて日本でもパスタという総称が認知されてきたのだ。

日本には食品の品質や表示に関する基準を定めたJAS(Japanese Agricultural Standard:日本農林規格)という規格がある。 例えば健康エコナのマヨネーズCMで「マヨネーズの65%以上は油なの」と壇ふみさんが阿川佐和子さんに語っているが、この65%という数値こそJAS規格が定めているものである。 その証拠に油脂分を減らした低カロリーなマヨネーズが店頭に並んでいたりするが、これらはJAS規格上「半固形状ドレッシング」もしくは「乳化状ドレッシング」に分類される。 (一度スーパーなどで低カロリーマヨネーズの裏面に記載されている品名などを見ていただけると分かる)
さて、ここで気になるのが我らパスタであるが、JAS規格は「パスタ」という言葉は残念ながら使用しておらず、ひっくるめて「マカロニ類」という品目で制定されている。

JAS規格によるマカロニ類の分類

上図はJAS規格における「マカロニ類」の形状による規格だ。
かなり曖昧だがこれらはJASマークが表記された食品で「品名」として表示されるもので、実際の各メーカーが打ち出しているそれぞれの名称などとはもちろん異なるし、輸入パスタなどで輸入業者が日本語ラベルなどを貼っている場合など、これと異なる場合もある。 原料についてJAS規格では「食品添加物以外の原材料としてデュラム小麦のセモリナ、デュラム小麦の普通小麦粉、強力小麦のファリナ及び強力小麦の普通小麦粉」としているが、強力小麦の使用を項目から削除し、デュラム小麦以外を規格外とする改定案を農林水産省が公表している。
パスタの母国イタリアでは乾燥パスタに関しては原料はデュラム小麦のセモリナでなければならないと規定されてはいるが、日本のように形状を数値的に分類はしていない。
(注:これを執筆したのは平成14年11月である)

パスタの栄養

パスタの成分表 次にパスタを栄養価について考えてみることにしよう。
近年、先進国(もちろん日本も含み)の食生活は動物性脂肪やたんぱく質に偏り、肥満や心臓病などの生活習慣病が急増している。 70年代頃、アメリカでは食生活と成人病との関係を探り出すために栄養保健会議などを発足し、理想的な食生活を模索し始めたのであった。 そこでは世界各国の食生活が調査され、イタリア南部などの地中海沿岸諸国の食生活が、健康維持に理想的だと結論付けたのである。 またイタリア(南部)では他のヨーロッパ諸国やイタリア北部に比べて成人病の疾病率が低いことが分かった。
これら調査から作成されたガイドラインによると摂取する炭水化物:脂肪:たんぱく質の比率は58:30:12が望ましいとされており、炭水化物を主とするパスタ料理は、魚介類や野菜を使ったソースで頂くことで、このガイドラインに近い栄養バランスを摂取することができる。 それにパスタ料理はバリエーションが豊富で、いろんな食材と組み合わせることで偏食になることもないのだ。
ただ注意して欲しいのはその絶対量とパスタ料理なら何でも良いという誤解である。 動物性脂肪、乳製品などよりも魚介類や野菜、肉類も牛肉などではなく鶏肉を中心としたパスタ料理をオススメしたい。 もっとも私はそんなの気にせずにパスタを楽しんでおるのだが。

先のガイドラインによると炭水化物の比率は6割近くもあり、いかに重要視されているかが分かる。 最新の栄養学においても炭水化物が健康維持や日常生活での重要なエネルギーとなる欠かすことの出来ない栄養素として重要視している。 体内に取り込まれた炭水化物は消化酵素によってグルコース(ブドウ糖)に分解され、それが血糖として体中に送られてエネルギーとなるのだ。 血液中の血糖値が急激に上昇するとインスリンが分泌されて、余分な糖分は脂肪となって体内に蓄積(太るということ)される。 この血糖値の急上昇を抑えるために血糖値が上昇しにくい炭水化物に切り替えるというのが、いわゆる低インスリンダイエットということになる。 ところがそもそも最善とされる炭水化物、脂肪、たんぱく質のバランスを崩し、低インスリンダイエット向きといわれる食品に固執した誤った知識によって偏食となりダイエットどころか逆に太るということもある。

炭水化物には「単純糖質」と「複雑糖質」とがあるのだが、前者は砂糖などに含まれるもので、後者は米や小麦粉に含まれるものである。 複雑糖質は文字通り、分子構造が複雑なので消化吸収が緩やかで血糖が上昇しにくく、体にも良い。 逆に単純糖質の過剰摂取は肥満の原因にもなり得るのだ。 また複雑糖質は水分により量が増し、少量でも満腹感を得ることができるという点でも優れている。
パスタに含まれる炭水化物はもちろん複雑糖質で、パスタはそれに加えて炭水化物の代謝を助けるビタミンB1、B2、カルシウム、鉄分なども含まれている。 米に比べて食物繊維が多いということもさることながら、日本のうどんやそばなど喉ごしを楽しむものと違い、アルデンテ(al dente)の言葉に表されるとおり、もともと噛んで食べるものであるから咀嚼(そしゃく)を促し過剰摂取を抑えるとも言える。 もちろん米などに比べると消化は緩やかであるのは言うまでもなかろう。

デュラム小麦とは何か

デュラム小麦のセモリナ粉 パスタの原料は言うまでもなく小麦である。 また小麦でもイタリアではデュラム小麦のセモリナ粉を原料とすることを定めており(生パスタはこの限りではない)、先に述べたJAS規格でもデュラム小麦か強力小麦と制定している。 もっとも日本の各メーカーもデュラム小麦のセモリナ粉を原料としているものがほとんどで、パッケージにも「デュラム・セモリナ100%」とか「デュラム小麦セモリナ粉100%」と謳っているものがほとんどである。 そこでこのデュラム小麦セモリナとは、まったく何なのだろうかという疑問が沸く。 結論から言うとデュラム小麦とは小麦の品種であり、セモリナとは製粉の方法ということになる。
(右の写真がデュラム小麦のセモリナ粉、ちょっと黄色い)

その前に小麦の話を少ししておくことにしよう。
分類すると一粒系二粒系チモフェービ系普通系があり、これらイネ科コムギ属の総称がコムギである。 日本では小麦、大麦をムギ類として同一視している観があるが、英語ではwheatbarleyといわれるとおり別扱いで「ムギ類」とひっくるめた名称はない。 また製粉して水を加えることで生まれるグルテンは小麦だけが持つ性質である。

一粒系
紀元前7000~8000年に栽培されていたが生産性が乏しい。
現代ではトルコ周辺の一部で栽培されているが、食料でなく飼料用として利用している。
栽培種ではもっとも原始的な品種で、染色体数は14。
二粒系
紀元前7000~8000年頃にはすでに栽培されていたと思われる。
クサビコムギと一粒系の野生種との自然交雑によって誕生したというのが有力。
主な品種はエンマ小麦、デュラム小麦などで、染色体数は28。
チモフェービ系
発生の起源は不明。
栽培種ではカフカスのグルシア地方固有で、後は野生種。
染色体数は28。
普通系
紀元前5000年頃には成立していたと思われる。
代表的な品種はパン小麦で、世界の小麦の栽培面積のうち90%がパン小麦。
日本で栽培されている小麦はパン小麦のみ。染色体数は42。

パスタの原料として名が知れているデュラム小麦は二粒系であり、普通系小麦より一世代原始的であるといえる。 デュラム(英語:durum)の語源はラテン語のデュロ(dur)であり「硬い」という意味。 (イタリア語でもduroとは硬いという意味)
語源のとおりデュラム小麦の胚乳は非常に硬く、もともと細かく製粉することが困難であった。 そのためおのずと目の粗いセーモラ(semola:小麦粉の荒挽き)であったり、それよりも少し細かいセモリーノ(semolino:これがセモリナ粉)であったわけである。 デュラム小麦のセモリナ粉を手に取ったことのある人なら知っていると思うが、我々が一般的に小麦粉と呼んでいる強力粉や薄力粉に比べると粗くて大きい粉だということがわかる。
硬いから粗挽きという理由の他にも、細かく製粉しすぎると澱粉粒などの成分が壊れてしまうこともあり、パスタにおいてはセモリナ粉がもっとも品質の良い美味しいパスタを作り上げることができるのだ。

小麦粉の1割前後を占めるのがたんぱく質で、たんぱく質には水に溶けるアルブミン(albumin)と水に溶けないグルテニン(glutenin)とグリアジン(gliadin)がある。 このグルテニンとグリアジンは、吸水すると結合して網目状の組織を作り出すのである。 この組織こそがグルテン(gluten)である。 グルテニンはグルテンの固さに、逆にグリアジンは粘着性を生みグルテンの結合剤として作用する。 また塩はグリアジンの粘着性を増加させる働きがある。だから、うどんや素麺などは生地に塩を加えるのだ。
このグルテンこそ小麦の最大の特徴でうどんや素麺を細長くのばすことができるのも、パンがふっくらと焼きあがるのもグルテンがあるからこそだ。 米やトウモロコシ、大麦など他の穀物はこのグルテンは形成しないので麺などを作ることができないのだ。

小麦粉はこれらたんぱく質の含有量と質によって、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉とに分類さる。 たんぱく質の含有量がもっとも多いのは強力粉で11.5%~13.0%、グルテンの量は40%前後で固くて強靭である。 一方、薄力粉のたんぱく質は6.5%~9.0%の含有量で、グルテンの量は20%前後と少なくて質も軟らかい。
デュラム小麦のセモリナ粉はどうかというと、たんぱく質の含有量は強力粉などとそれほど違いはないのだが、グルテンの量が多くて、さらに強い。 またパスタをゆでるとグルテンは熱によって変性されて、パスタ独特の歯ごたえを生み出すのもデュラム小麦のセモリナ粉の特徴であり、パスタのための小麦粉といわれるのはこのためである。
カロチノイドという色素含有量が多い(通常小麦の約2倍)のもデュラム小麦の特徴のひとつで、パスタが黄色いのもこのため。

こうやって考えるとやっぱりデュラム小麦はパスタのために生まれた小麦であり、パスタはこのデュラム小麦の力を十分に味わうことのできる小麦製品なのだ。 ああ、ありがたや、デュラム小麦。